東西を結ぶ交易路シルクロードと聞けば、誰もが眠っていた旅心を思い出すだろう。
現在の定義によれば、シルクロードとは海上交通路も含めた東西交易路だが、元々は陸上のキャラバンルートを指した。ドイツ地理学者のリヒトホーフェンが、その著書の中で用いたザイデンシュトラーセン(Seidenstrassen《絹の諸道》)を英訳したものが広く定着し、今日に至っている。
狭義には長安から河西回廊を経て敦煌に至り、3つのルートに分かれる陸上交通路とその支路を指す。敦煌から北進し天山山脈の北側を西に向かうルートを天山北路、天山山脈の南側を進むルートを天山南路、そして崑崙山脈北麓を西に向かう西域南道に大別されている。
上海暮らしで忘れていた、果てしない青い空があった
今回、国慶節休暇を利用して、かねてよりの憧れだった、シルクロード天山南路を旅することが出来たのは非常な幸運であった。旅の記録をここに留め、新たな旅人を彼の地へと誘いたく思い筆を執る。しばらくお付き合い願いたい。
旅の玄関口となるウルムチは、新疆ウイグル自治区の首府である。上海からは直線距離でも3,200キロ、
飛行機で約5時間のフライトだ。
内陸性乾燥気候のウルムチは夏場には30℃を越え、冬場はマイナス20℃程度まで冷え込む厳しい気候だ。10月の平均気温は13.5℃。カラリと乾いた空気はやや肌寒いが、降り注ぐ強い日差しと、抜けるような青い空が心地よい。ただし、朝晩は冷え込むので上着が必要だろう。
ウルムチでは現地ツアーガイドと合流して、まずは腹ごしらえを行う。料理は
一般的な中国料理だが、味付けはややスパイシー。残念ながら本格的な新疆料理ではないのでやや物足りぬが、それでも使用する食材は清真(豚肉や豚脂を使わないイスラム教料理)を意識したものだった。
食事を終えた我々はバスに乗り、ウルムチの東183キロにあるトルファンを目指すことになる。
トルファンとはウイグル語で「低地」を意味しており、その名の通り中国でももっとも低い土地だ。市の南側にあるアイデン湖は海抜マイナス154メートルの塩水湖で、中国の死海とも呼ばれている。最高気温は48℃、最低気温はマイナス28℃と、ウルムチ以上に厳しい気候である。
トルファンまでの道程には立派な国道が通っているが、その周りにはほとんど何もない。左手に
天山山脈の冠雪を見ながら、ひたすら真っ直ぐな道をバスは走る。時折、思い出したように列車を見かけたり、アジア最大だという風力発電所が目に入るが、それ以外は無人の荒野が続く。
はじめはその雄大な景色に釘づけだったが、延々とそれが続くと飽きてくる。バスに揺られて2時間半。半ばウトウトしつつ
岩石の岩山を越えると、そこは砂漠のオアシス都市トルファンだった。