味噌かつ、味噌田楽(おでん)、味噌煮込みうどん……。
どれも八丁味噌を活かした名古屋の名物だが、正直なところあまり好きではなかった。
たっぷりの味噌はどうもしょっぱいし、濃厚な甘さが鼻に付いて苦手と感じていた。
また、なんでもかんでも濃い味噌の色で、見た目的にも美しくないと思っていたのだ。
ところが、どんな心境の変化があったのか、今ではこれらは大好きな料理となっている。
苦手だったはずの甘味噌も今では愛おしいし、味噌煮込みと共に喰らう白飯も最高だ。
八丁味噌料理以外にも手羽先やひつまぶしなど、愛する名古屋料理は枚挙に暇がない。
大正13年創業、名古屋の老舗八百秀の上海2号店が浦西にオープンしたのは先日のこと。
久しぶりに八丁味噌の風味が恋しくなったので、さっそく真新しい店舗の暖簾をくぐった。
案内されたのは薄暗い個室で、伸し掛かるように低い天井と相まって圧迫感を感じる。
装飾品などの類を排した殺風景な空間は、どこか寒々とした印象を拭いきれない。
ぼくは場の雰囲気が料理の味に与える影響は、けっして無視できないと思う。
過度の装飾は必要ないが、飲食店側は居心地のよい空間造りを心がけるべきだろう。
メニューには待望の味噌かつや味噌煮込みうどんをはじめ、一般的な日本料理が並ぶ。
残念ながら愛する手羽先は見当たらなかったが、立上げ時の品数としては十分だろう。
実直でけれんない味は目立った不可もなく、値段相応に旨かったように思う。
服務員たちもオープン間もないせいか若干たどたどしさが残るも、対応自体は悪くない。
店主の小林氏もたびたび個室まで顔を出してくれ、心遣いも行き届いているようだ。
残念なのは盛りつけで、店の内装同様に殺風景な印象を拭いきれないものが多かった。
たとえば味噌かつは付け合わせのキャベツなどなく、敷紙のうえに乗せられるのみだ。
にぎり寿司の下に敷かれた笹の葉は、安っぽいビニール製のもので興醒めしてしまう。
これらは料理の主役ではないだろうが、だからといって手を抜いてよい部分でもない。
魅力的な舞台や脇を固める助演者たちがあってこそ、主役も輝けるのだとぼくは思う。
料理の味自体は悪くないだけに、この辺りのフォロー不足を残念に感じてしまった。
帰り際に手羽先がなくて残念だったと告げたところ、店主の小林氏はこう語る。
「今はまだスタッフたちにあれこれ教えながら、手探りで前に進んでいる状態であり
大きく手を広げることはできないが、今後はお客さんの意見を取り入れ成長していく」
この気持ちを持ち続けることができれば、今後もよい方向へと変わっていけるだろう。
八丁味噌の香りが恋しくなったころ、またフラリと訪れてみたいと思わせてくれる。
はたしてその時にどのように変わっているのか、今から先が楽しみな店である。
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日本料理 八百秀
住所 上海市長寧区華山路1585号 華山花苑内1F(華山路 x 淮海西路、交差点を北)
営業 11:30~14:00 / 17:00~23:00 年中無休
電話 010-6281-0108
予算 味噌かつ 20RMB / 味噌煮込みうどん 25RMB / 寿司盛合せ(松) 128RMB
備考 6月中は全品2割引き / 定食あり
交通 公交 淮海西路(44,48,113,138,328,506,923路)ほか
言語 日本語 / 中国語
網址
http://www.mms-net.com/~yaohide/ (現時点では浦東店の情報のみ)