まだぼくが中学生だったころ、将来は料理人になりたいと考えていた。
何かを創り出すのが好きだった食いしん坊は、料理という方面でその創作意欲を満たしていた。
今考えれば基本も何もデタラメだったけど、やがては料理の道へ進みたいと考えていたのだ。
けれど、プロ調理師を目指すからには、今までのような好き勝手はできないとも思い悩んでいた。
田舎町の小さな食堂しか知らなかった当時のぼくにとって、店のメニューは万年同じものだったし
そこに創意工夫が入り込む余地や、新たな料理を次々と生み出すなんて考えはなかったのだ。
今考えれば視野が狭いとしかいいようがないが、プロになると自由が効かぬと考えていたのだ。
市内某所にある居酒家宮崎は、そんな制約からは解き放たれた料理人が自由に腕を振るう店。
営業日も営業時間も不定期で、メニューは存在せず、店主が作りたいものを作りたいように作る。
利益を考えて原価を削る必要もなければ、客の回転など考えず1回に全力投球できる場所だ。
それはかつて夢見た、ただ旨い料理を作って誰かに喜んで貰うという、生粋の料理人の姿だ。
今年最初の営業日となったこの日、噂を聞きつけて訪れた何人かの男女が新年会を行なった。
この日のメニューは関東風しゃぶすきー、ヅケ丼、海鮮サラダや鶏ハムなどなどの料理が並ぶ。
高価な食材や変わった皿はないが、基本を大切に手間を惜しまず作り上げた逸品揃いである。
テレビからは日本から持ち込んだ新春特番がたれ流され、新年会のムードを盛り上げていた。
客らは思い思いの杯を重ねながら、会話に花を咲かせつつ、その場の雰囲気を楽しんでいた。
旨い肴、旨い酒、そして楽しい仲間たちに囲まれて、身体ばかりか心までもが酔っていくのだ。
誰もが思うままくつろぎの時間を楽しんで欲しいという、店主のおもてなしの心が息づいていた。
閉店時間も存在しないのでつい長居してしまうが、それでもひとり、またひとりと家へ帰っていく。
愉快な想い出と、しあわせな舌の記憶を手土産に、誰もがまた来ようと考えながら家路を急ぐ。
ぼくもまたここを再訪することを誓いながら、次の開店を待ちわびる今日この頃であった。
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居酒家宮崎
住所 上海市内某所(非公開)
営業 不定期(客の要望または店主の気まぐれで開店)
電話 非公開
言語 日本語
菜単 なし
備考 完全紹介制 / 酒類の持ち込み大歓迎 / 来店者の愛で運営中