イミグレを経て正式にタイへの入国を許可され、ぼくは心の中で小さくガッツポーズをとる。
もはやぼくがこの国にいることを咎め立てる者はなく、大手を振って日のもとを歩けるのだ。
あまりにあっけない結末に拍子抜けを感じつつ、ここに至るまでの紆余曲折を思い返した。
ことの発端は9月28日の夜、出発の4日前にまでさかのぼることになる……。
仕事に感けて、タイのことはなに一つ調べていなかったのだが
少しくらいは事前情報を得ておいたほうがよいだろうということで
Webサイトなどで現地の情報収拾などをしていたときのことだ。
某サイトで驚愕の情報を見つけ、ぼくは瞬時に血の気が引いた。
曰く、タイに入国するためにはパスポートの残存期間が6ヶ月以上残っている必要があるという。
この時点でぼくに残された有効期限は5ヶ月ばかりであり、この条件を満たしていなかったのだ。
翌朝、日本領事館に更新に関する問い合わせを行うものの、申し訳なさそうに断られてしまう。
通常5営業日かかる更新手続きを1日でやれというのだから、端から無理な話しではあるのだが
それでもなんとかしてみましょう、との返事を期待していた願いは、脆くも打ち砕かれてしまった。
なんとか抜け道はないものかと旅行社に連絡するも、残念だがキャンセルするしかないという。
ぼくも今さらどうしようもないと諦めムードであったが、我が妻だけは少しも諦めてはいなかった。
彼女曰く、今キャンセルしても代金が戻るわけでもないから、最後まで粘ってみようというのだ。
相手は国だけに粘ってどうなるものでもないとも思ったが、たしかに諦めるにはまだ早いだろう。
現在休暇で日本に帰国中の旅行社総経理に、わざわざ国際電話で問い合わせまで行なった。
もはや頼みの綱は彼だけであり、顔の広い彼ならタイの入国管理局に絶大なコネがあるとか
偽造旅券を用意するくらいのことはしてくれるかもしれないと、神頼みに近いことまで考える。
彼の返答は関係各所に問い合わせてみると至って普通だったが、あとはもう任せるしかない。
しばらく後に伝えられた調査結果によれば、6ヶ月を切っていても入国可能な場合もあること。
そして旅行社側に責任があるので、今キャンセルすれば費用は全額返金するというものだった。
ぼくは自分のミスだと感じていたので魅力的な申し出ではあったが、今さら諦めたくはなかった。
ゴールへの関門は2つそびえており、ひとつは空港にて搭乗のチェックインが可能かどうかで
もうひとつはプーケット空港のイミグレにて、入国審査官が入国を認めてくれるかどうかだった。
一度は諦めかけた旅行だが、わずかでも可能性があるならぼくはそこに賭けてみることにした。
そして当日、チェックイン手続きは何ごともなかったように終わり、イミグレも無事に通過できた。
各方面をさんざ騒がせてしまい、迷惑をかけまくった割りにはあっけないほど簡単に入国できた。
これならばいっそ、6ヶ月の期限のことには気がつかぬほうがしあわせだったとすら思えてくる。
だがしかし、今度のことでぼくは簡単に諦めないことの大切さを身をもって学べた気がするし
旅行社側の真摯で的確な対応に触れ、今後もこの旅行社を使い続けて行こうと思うに至った。
とにもかくにも結果オーライ、ぼくらのバカンスは今まさに始まったばかりなのであった。