意外に思われるかもしれないが、ぼくは酒というやつがそれほど好きではない。
もちろん嫌いではないし、磨きぬかれた上質なスコッチなどは素直に旨いなと感じられる。
ただ、家でまで飲もうとは思わないし、仮にこの世から消え去ろうともさほど困らないのだ。
ぼくがそう感じるのは肉体的に酔うことはあっても、精神的に酔うことがないせいだろうか。
酒が好きでもないのに何故、足繁くバーに通うのかといえば、雰囲気が好きだからである。
酒場を包む一種独特の空気や、見知らぬ他人との垣根の低さ、そして会話を楽しむのだ。
いわば酒に酔うのではなく、バーという空間の持つ雰囲気に酔いたいと感じているのだ。
古北にある8 balanceはそんな、雰囲気に酔いしれることが可能な隠れ家のようなバーだ。
仙露路と茅台路のあいだを古北路沿いに進むと、右手にちょっとした広場が広がっている。
ここに入ってしばらく奥へ進むと、小さく 8 balance と記された判りにくい入り口が見えた。
表から見れば小ぢんまりとした印象であるが、中は階層構造となっていて思いの外に広い。
ダーツマシンが並ぶ部屋や、ゆったりとソファを配した中層階を横目に階段を下っていくと
豊富なボトルが並ぶ立派なカウンターにて、深夜にも関わらず多くの客がくつろいでいた。
広告などは出していないにも関わらず、多くが口コミを頼りにこの隠れ家を訪れているそうだ。
店の最深部には、まるで掘りごたつのような雰囲気の、低いソファと大きなテーブルを用意。
10名くらいまでの団体であれば、この場所でまわりに気兼ねなく会話を楽しむことができるし
ひとりの客もカウンターにて、32歳にしては貫禄のあるマスターが相手をしてくれるだろう。
思えば、ひとりでフラリと訪れられるのが、ぼくがバー通いをする最大の理由かも知れない。
優れたバーテンダーは、よき話し相手であり、時にはよきカウンセラーとなってくれるものだ。
ひとり寂しい夜の話し相手に、仕事上の愚痴の聞き手に、悩み事の相談相手となってくれる。
悩み事に対する明確な答えは与えてくれなくても、話すだけで楽になることも多々あるのだ。
また、バーという空間では隣の客や、バーテンとの会話に割って入っていける雰囲気がある。
酒場での出会いが一夜限りではなく、長く続く友情へと発展するケースも少なくはないのだ。
そんな縁(えにし)を繋いでくれるのだとしたら、酒ってやつも意外と好きかもしれないと思う。
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8 balance
住所 上海市長寧区古北路555弄 虹橋華庭5号楼3室 (古北路 x 仙露路)
営業 19:30~02:00 (要確認)
電話 021-6241-6720
予算 マッカラン12年 45RMB
言語 日本語 / 中国語
備考 非常に判りにくい位置にあります