旨い食べ物に満ちあふれる上海だが、こと海産物に関してはあまり満足しがたい状況だ。
四方を海で囲まれた日本では、昔から動物性たんぱく質の供給を海洋資源に頼ってきた。
近年では食事の欧米化が進んだとされるが、依然として国民一人辺りの消費量は多い。
資料によればその消費量は米国の3倍で、日本の食卓から欠くことの出来ぬ存在なのだ。
そんな魚介を愛する我々日本民族にとって、上海のスーパーやレストランはやや物足りない。
水産物もあるにはあるが淡水産が多く、アジやイワシにはなかなかお目にかかれぬのだ。
このストレスフルな状況を打破するために、一組の夫婦が敢然と立ち上がった。
サンマやサバ、イワシにアサリなど、日本の食卓で一般的な魚介類は無理だとしても
せめて新鮮な海産物を腹いっぱい食らい、日頃の憂さを晴らしてやろうではないかと!
このブログを通じて呼びかけを行なったところ、3人の賛同者たちを得ることもできた。
市場中の海産物を食べ尽くすには心許ない人数だが、それでも頼りになる仲間たちだ。
我々は01路の公共バスに乗り込み、目指す銅川路の水産市場へと向かったのだった。
数ヶ月ぶりに訪れた市場は、相変わらずの喧騒と熱気と、漂う臭気に包まれていた。
水槽の中では見たこともない大きな魚が泳ぎ回り、岩ガキは無造作に積み上げられる。
床には潰れたカエルや魚の頭が放置され、選別されたカニが次々と打ち捨てられていく。
この場所での「生」は鮮度を表わす記号でしかなく、それ以上の意味を持たないのだ。
そしてぼくらもまた、ここでは捕食者として食物連鎖の頂点に君臨すべく獲物を探す。
無駄な殺生は避けるべきだとしても、旨いものを喰うためには残虐にもなれるのだ。
中国語が堪能で、価格交渉にも慣れた吉田さんのおかげで買い物はスムーズだった。
エビ、シャコ、ナミガイの一種、多宝魚(イシビラメの一種)、白魚、小さな貝を確保。
前々から予告していた海腸(ユムシ)は買い損ねたが、量的には5人でちょうどよい。
最寄りの中華料理店に食材を持ち込み、まずはよく冷えたビールで喉の渇きを潤す。
枝豆やキュウリの冷菜をつまみに飲っていると、やがて色鮮やかな白灼海蝦が登場する。
白灼は下味を付けずに熱湯にくぐらせる調理法で、鮮度がもっとも活かされるやり方だ。
かすかな塩気と香気を纏ったエビはプリプリと弾力を持ち、殻を剥くと汁が飛び出す。
いつも思うことだが中国料理人たちの火の通し方は絶妙で、素材を見事に活かし切る。
丸ごと口中に放り込み咀嚼すれば脳髄は官能に震え、片手はもう次のエビへと伸びる。
愛らしい白魚たちはオムレツ風に綴じ込まれ、思わぬ伏兵となって我々に襲いかかる。
姿蒸しにされた多宝魚は、そのなめらかな舌触りと濃いしょうゆ味が互いを引き立てあい
日本人ならば、白ごはんを頼まずにはいられなくなる味わいを以って我々を魅了していく。
スパイシーなシャコはビールが進むし、無名の貝もその小さな身に深い旨味を湛えていた。
我々は手掴みで殻を剥き、骨をしゃぶり、手や口の周りを油でベタベタにしながら貪った。
あれだけ大量の海鮮は見る間に胃袋へ消え、あとには大きな満足感だけが残ったのだ。
今回は告知期間が短かったこともあり、参加の意志あれど都合が付かない人も多かった。
参加してくれた全員の方たちから、第二回の開催を望む声が挙がっていたこともあり
今後もこの催しはいろいろと趣向を変えつつ、定期的に開催していこうと考えている。
例えば市場で買った海鮮を七輪で焙って食らうなど、考えるだけでエキサイティングだ。
次回は出来るだけ早めの告知を心がける心づもりなので、旨いものが喰いたいという
強い情熱を秘めた皆さまのご参加を、心よりお待ち申し上げたいと思う今日この頃だ。
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水産市場 de デート (第一回)
住所 上海市普陀区銅川路 銅川水産市場 (大渡河路と曹楊路間一帯)
予算 90RMB/人 (材料費、冷菜、ビール、ごはん代を含む)
参加 たつや、カモン、
こうちゃん、
shoko、しゅう